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「弟の心配」

母が入院して、家のことはすべて弟の肩にかかっている。
家事のこと、病院での看護(毎日顔を見せて励ましたい)、農家のこと…。
それこそ、こんなに働くことなどなかったかもしれない。
私は遠くに嫁ついでしまったので、この頃の彼の普段の様子はよく知らないのだが。

とにかく「母がいなくなる」ということが本能の部分で信じられないようだ。どんなことを先生に言われようとも
自分は信じない。母は死んだりしない。そう信じていた。

普段、多くを語らない彼が母の手をにぎり、「元気分けてやるから」と毎日通っていた。
癌にいいという水を見つけたといっては買って飲ませる。私に言われた「アガリクス」「正官庄」を飲ませる。
めんどうがって飲まない母に飲ませるのはかなり苦労があったようだ。
自分が癌だと知らないから積極的には飲まないし(そういうとこわがままだったなぁー)

父も毎日、病院へ顔を出した。「治るから」「飯食え」これが彼の精一杯なんだろうと思った。
晩酌しては、めそめそ泣いていて、弟にはさぞきつかったろうと思う。
でも、まさか、自分を残して「母が旅立つ」なんて夢にも思わなかったのだろう。
なぜ、自分でなく彼女なんだ。なにも悪いことはしていない。悪いのは俺なのに…。
そう毎日自分をせめていたようだ。

こんな生活が弟にはつらいようで時折、電話がきた。姉として出来るのは「愚痴」を聞いてやることと
父のことは大目に見てやれと諭すことぐらいで…。
とりあえず私に話すと気分も楽になるようなので、このことは今も続いている。

こういう電話の後は、遠くへ来てしまった自己嫌悪にさいなまれるがだんなに話すことも出来ない私。
体調不良は日に日に悪化していたようだ(この時点ではあまり自覚がない、毎日緊張していたから)